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高松高等裁判所 昭和52年(ラ)55号 決定 1977年12月09日

抗告人 北田石油株式会社

右代表者代表取締役 北田輝男

右代理人弁護士 岡田一三

相手方 株式会社大和生コン

右代表者代表取締役 大西久俊

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取り消す。本件異議申立を却下する。手続費用は全部相手方の負担とする」との裁判を求め、その理由は別紙記載のとおりである。

抗告人は、先ず、本件競売開始決定に対する異議申立事件について、原裁判所の審理手続に法令違背がある旨主張するので検討するに、競売法による船舶の競売開始決定に対する不服申立の方法については右競売開始決定が執行処分であり一の執行方法に該当するものであるから、民訴法五四五条の訴によるべきではなく、同法五四四条の規定を準用して異議の申立をなすことができるものと解すべきであるから、その審理手続については同法五四三条により、競売裁判所が口頭弁論を開始するか否かはその自由裁量に属するものといわなければならない。そして、口頭弁論を開始しない場合には異議申立書を相手方に送達することを要しないし、また当事者を審尋するか否かも競売裁判所の自由裁量に属することも明らかである。

したがって、原裁判所が本件異議申立事件において、口頭弁論を開始しないで審理し、異議申立書を同事件の相手方たる抗告人に送達せず、また当事者を審尋しなかったとしても、右の措置は何ら法令に違背するものではないから、抗告人の前記主張は理由がない。

次に、抗告人は、本件競売申立事件の売買代金債権は商法八四二条六号所定の被担保債権に該当する旨主張するので判断するに、同条同号所定の船舶先取特権の制度は、地理的関係から権利の執行が事実上海産に制限されるような債権者に先取特権を認めなければ債権者は現金取引でない限りその給付をしようとせず、そのことがひいては航海に支障をきたすことやその債権が他の債権者にも共同の利益を与えている等の理由から認められたものであることに鑑みると、右商法八四二条六号所定の航海継続の必要によりて生じた債権とは既に開始された航海の途上において当該航海を継続するために必要な船舶の修繕、必需品の買入れ、積荷の処分などの行為によって生じた債権をいい、たとえ船舶の修繕、必需品の買入れ等の行為がなされたとしても新航海開始の必要により生じた債権は除外され、さらに、当該船舶の船籍港(当該船舶の所有者等の海上企業体としての本拠港と異る場合にはその本拠港)において発生した債権は、同条八号の債権と異なり債権者に船舶先取特権を与えてまで保護する必要性がないから前記債権はそれ以外の地域において発生したことを要するものと解するのが相当である。抗告人は、砂利採取船については外航船と異なり新たな航海という概念をとり入れることはできないとか、債権の発生地が船籍港の内外で先取特権の有無を決することは合理的理由がない等主張するがいずれも独自の見解であってとうてい採用できない。

そして、記録によると、原決定添付の船舶目録記載の砂利採取船(本件船舶という)はもと、愛媛県今治市通町二丁目三番三五号に本店を有し、同市今治港を本拠港として海上における砂利採取並びに砂利運搬業等を営む大昭汽船有限会社(大昭汽船という)がその船籍港を今治港とする本件船舶を所有していたところ、相手方が昭和五二年二月一七日大昭汽船から代物弁済によりその所有権を取得し、同年九月六日移転登記手続を了したこと、その肩書住所地に本店を有し、今治市内に内港給油所ほか二箇所の給油所において石油類の販売業等を営んでいる抗告人が、抗告人と大昭汽船との間で昭和五一年六月二六日に締結された継続的石油類売買等に関する契約に基づき大昭汽船に対し、昭和五一年九月一日以降同年一二月二四日迄の間合計一一回に亘り本件船舶の燃料として使用する重油潤滑油等を代金合計五四五万七八四〇円で売渡し、同会社に対し右金五四五万七八四〇円の売買代金債権を有することが認められる。

しかし、右の債権が既に開始された本件船舶の航海を継続するために必要な行為によって生じた債権であり、且つ本件船舶の船籍港であり且つ大昭汽船の本拠港である今治港以外において発生したものであることを認めるに足りる証拠はない。

したがって抗告人の前記主張は理由がない。

その他一件記録を精査するも原決定を取り消すべき違法の点は見当らない。

よって、本件競売開始決定を取り消し本件競売申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させるべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 今村三郎 裁判官 下村幸雄 福家寛)

<以下省略>

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